大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成5年(行コ)33号 判決 1995年11月21日

大阪市住吉区杉本一丁目五番七号

控訴人

藤本信夫

右訴訟代理人弁護士

大槻龍馬

谷村和治

浅野芳朗

大阪市住吉区住吉二丁目一七番三七号

被控訴人

住吉税務署長 大西宏蔵

右指定代理人

中牟田博章

野村正明

石井洋一

坂田和規

主文

一  本件控訴を棄却する。

一  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の申立

1  控訴人

(一)  原判決を取り消す。

(二)  被控訴人が、昭和四六年四月一五日付けでなした

(1) 控訴人の昭和四二年分の所得税の更正のうち総所得金額二三七万八〇〇〇円を超える部分及びこれに伴う重加算税の賦課決定

(2) 控訴人の昭和四三年分の所得税の更正のうち総所得金額三三二万三〇〇〇円を超える部分及びこれに伴う重加算税の賦課決定

(3) 控訴人の昭和四四年分の所得税の更正のうち総所得金額四五四万円を超える部分及びこれに伴う重加算税の賦課決定

をいずれも取り消す。

(三)  訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

主文同旨

第二事案の概要

本件事案の概要は、原判決の「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」欄に記載のとおりであり、証拠関係は原審及び当審記録中の各証拠関係目録記載のとおりであるから、これらをそれぞれ引用する。

第三当裁判所の判断

一  当裁判所も、控訴人の本件請求を理由のないものと判断するものであるが、その理由は、次のとおり補促するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第三 争点に対する判断」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決七枚目裏一二行目の「第七三号証、」の次に「第八九、九〇、九三、九四、一〇〇ないし一〇七、一一一ないし一一四号証、」を同八枚目初行の「第五八号証、」の次に「乙七四ないし七七号証、」を、同一四枚目表八行目の「フジ医療器は、」の次に「控訴人がトヨタ自動車の例に倣って製造・販売部門を分離するため(甲一一七号証)」をそれぞれ加える。

2  同一四枚目裏四行目末尾の次に改行のうえ「この点に関し、控訴人は、控訴人が捜査過程で本件製造部門の事業は控訴人個人のものであると供述した理由を、信一郎や、本件申告手続きに関係しており、かつ当時国税局に勤務していた娘婿の吉岡耕三を庇うためであるとし、甲一二三号証中にもこれに沿う記載部分があるが、控訴人が昭和四五年六月一八日、国税局職員の質問に対し「株式会社フジ医療器を販売のために設立して、自分が担当し、製造は信一郎が担当している。会社の方は正しく申告しているが、製造の方は売上を抜かして少なく申告している」旨述べている(甲一〇七号証)ことと右理由は辻褄があわず、右記載は到底信用できない。

又控訴人は製造部門が同会社の事業であることの主張について、マッサージ機械製造工場の従業員の給料がフジ医療器の資金から支払われていたことを根拠に挙げ、甲九五号証、九六号証、一一九号証、一一二号証中にはこれに沿う記載部分があるが、前記認定事実と乙九、三九号証によると従業員の給料の支払いについても、製造・販売部門を区別せずに、いわゆるドンブリ勘定で支払いがされていたことが、また甲三八号証、九七号証、甲一二一号証の一によれば、別途給料明細書が作成された昭和四二年二月以降のフジ医療器とフジ製作所の支払給与が明確に区分されており、右書面に記載されたフジ医療器分については、フジ医療器の法人税申告で経費として計上されていたことが認められ、むしろ申告の際には製造・販売部門を区分していたことが認められるから、前記各右証拠をもって、右主張の根拠として採用することはできない。もっともこの点についても、控訴人は右製造・販売部門を区分して処理したのは、申告手続きに関与した吉岡耕三がフジ医療器の法人税のほ脱の目的で行ったものと主張し、これに沿う同人の供述や同旨の調書(甲三四ないし三九号証)があるが、真実控訴人や信一郎その他関係者が、本件製造部門もフジ医療器の事業であると認識していたとすれば、法人税のほ脱の目的で製造・販売部門を分離することは、右認識する実体とかけ離れすぎており、吉岡がフジ医療器の設立に関与し製造部門が右会社の事業目的に含まれていないことを熟知していたことからすると、税務に詳しい大蔵事務官であった吉岡が考えるにしては右処理は拙劣というほかない仕組みであること、むしろ前記認定事実によれば右記帳や申告は、前記認定の実体に則したうえ仕入れ価格等の操作等による税のほ脱を図ったものとみるのが自然であること等からすれば、前記供述等はたやすく信用できず、さらに右主張自体も本件税務調査開始後二か月も経過した昭和四五年九月四日付、同月一七日付の控訴人の各上申書(甲七五号証、七六号証)によって初めてなされたものであること等に照らすと、右主張は到底採用できない。」を加える。

3  同一四枚目裏八行目の「前記のとおり、」の次に「所得税確定申告は信一郎名義でされ、他方、株式会社フジ医療器(以下「フジ医療器」という。)も法人税の申告を行っていたが、これらの点につき信一郎は、自己き申告書やフジ医療器の申告書の内容や基礎たる帳簿も見たことがなく、それぞれの納税額についても認識も有しておらず、自己の申告書に署名押印もしたこともなく、その申告をしていることも知らなかったことが認められ、又」を加える。

4  原判決一五枚目表七行目から八行目にかけての「も認められる」を「、控訴人は信一郎に対し、昭和四二年から同四五年六月まで一か月金二〇万円程度を、信一郎の妻に対し金二万円程度をそれぞれ給料名目で交付していたことがそれぞれ認められる」と改める。

二  控訴人は当審において、控訴人の所得の算定Ⅰつき損益法によらず、財産増減法によったことを不当とするが、本件では、控訴人の所得を算定すべき基礎となるべき帳簿や伝票等の書類が作成されていないこと、前記認定のとおり控訴人はその製造した機械をフジ医療器のみに販売し、フジ医療器も控訴人の製造部門で製造した機械のみを仕入れるという取引形式を採っており、販売価格の決定も控訴人が行っていたか、その了解の下に行われていたもので、控訴人から依頼を受けた吉岡耕三が、税務申告を行うに際し、まずフジ医療器の所得額を前年度を上回る程度で適宜決めて、これに対応する価格のもとにマッサージ機器を仕入れたこととして、毎年度の売上帳簿(甲八六ないし八八号証)にその価格の書き込みをしていたにすぎないことからすると、控訴人とフジ医療器の資産、経理等を截然と区別することが出来ないのであり、このような場合には損益法により所得の算定をする基礎を欠き、これによる所得の算定は不可能であるというべきであり、他方その実額の把握が可能な期首期末の資産の増減により所得を認定する財産増減法は、実額に近い所得を算定できる合理的な算定方法といえるから、右主張は採用できない。

三  そうすると控訴人の本件請求は理由がないから棄却すべきであり、これと同旨の原判決は正当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき国税通則法一一四条、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法五九条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山中紀行 裁判官 武田多喜子 裁判官 松山文彦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例